洪水対策地下施設を見学
私が住む栃木市は、長い間大きな自然災害の発生が無い、安全で住み易い地域と言う認識でした。
ところが、丁度今から10年前の、平成27年(2015)9月9日から11日にかけて、60年に1度という大雨の被害が発生しました、「平成27年関東・東北豪雨」です。私はこの街で60年以上暮らしてきていましたが、これほどの洪水被害を見たことがありませんでした。この時の栃木市中心市街地の被害は、浸水面積約171ha・床上浸水732戸・床下浸水988戸と言うものでした。私の家も直ぐ脇を流れる清水川が溢れ、浄化槽は浸水で使えなくなりました。幸いもう一歩のところで、床下への浸水に至りませんでした。
その後は、こんな被害はもう起きないだろうと、高く括っていたのですが、4年後の令和元年(2019)10月11日から13日にかけての、台風第19号に伴う大雨により、栃木市中心市街地は、またもや未曽有の水害に見舞われてしまいました。浸水面積は約218ha・床上浸水1217戸・床下浸水996戸と、前回より広範囲に被害をもたらしました。「令和元年東日本台風(台風第19号)」です。
栃木県は本格的な巴波川の治水のために、令和5年(2023)9月7日、「一級河川巴波川地下捷水路本体建設工事」の起工式を執り行い、蔵の街栃木市街地を洪水被害から守るため、蔵の街大通りの地下約10mに、直径約5.5mのトンネルを通して、主要地方道栃木粕尾線の巴波川に架かる「原の橋」の上流左岸に流入施設を設け、巴波川の増水した水を取り込み、地下トンネルでバイパスして、主要地方道栃木小山線の巴波川に架かる「平成橋」の下流側右岸に設ける流出施設より、巴波川に戻すものです。掘削するトンネルの総延長は約2.4kmに成るそうです。
現在、流出施設側の工事は着々と進行中で、今年に入って流入施設の工事も本格的に始まったようです。
そこで、私は現在進んでいる洪水対策のための地下施設について、より深く知ろうと、東京周辺で稼働している同様の「地下防災施設」を見学してきました。
初めに東京都建設局が管理している「神田川・環状七号線地下調節池」です。
環状七号線の道路の下40m前後の深さに長さ4.5kmに渡って、内径12.5mのトンネルを作り、神田川・善福寺川・妙正寺川に取水施設を設け、大雨等で増水した河川の水を地下トンネル内に流入させて貯留し、洪水が収まったらポンプで汲み上げて、元の河川に戻す設備です。

したがって、洪水の時稼働させる施設の為、平常時はトンネル内に入って見学をすることが出来ます。
上の写真は見学時に撮影したもので、地下貯水池本体部では無く、取水施設から地下貯水池への連絡管渠部分に成ります。連絡管でもその内径は約6m有り、丁度栃木の地下捷水路の規模と同等の大きさになります。ここでそれを実感しました。
地下貯水池本トンネルの内径は12.5mですから、その大きさは倍以上になり、この貯水池には約54万㎥の洪水を貯留出来ると聞いても、とても理解不可能です。次の写真が地下貯水池の様子です。見学者が小さく見えます。

トンネル内に入る時は各自にペンライトが渡されましたが、トンネル内は水を貯める所なので、照明設備が有りません。トンネル内で案内のスタッフの方から、照明を一度一世の消灯するように言われ、その瞬間周囲は漆黒の闇に包まれ、全く何も見えない状態になり、普段はトンネル内はこんな世界なのだと知ることが出来ました。
次に、埼玉県春日部市の東の端、千葉県との県境となる江戸川の右岸に、更に大規模な洪水対策地下施設が有ります。そちらも見学してきました。
国土交通省江戸川河川管理事務所が管理する、「首都圏外郭放水路(防災地下神殿)」です。
首都圏外郭放水路は倉松川、大落古利根川など中小河川の洪水を地下に取り込み、国道16号線の地下50mに総延長6.3kmのトンネルを通じて江戸川に流す、世界最大級の地下放水路です。

上の写真が「地下神殿」と称される、調圧水槽です。その大きさは、幅78m、長さ177m、高さ18mと言う巨大な地下空間に成ります。次の写真は、現地に掲示されていた施設の説明板です。

図の左下、地下トンネルを通じて流れてきた洪水が、第一立坑内で水位を上げ、調圧水槽内に流れ込んできます。調圧水槽内の水位が一定の高さまで上昇すると、図右上の排水機場のポンプが起動して、排水樋管を通して、江戸川に排水します。
次の写真は、首都圏外郭放水路・地底探検ミュージアム「龍Q館」2階フロアーに展示されている「施設稼働模型」の一部を撮影したものです。前掲の説明図部分を、立体的に断面下模型です。

左下のトンネルを通じて流れ込んだ洪水により、第一立坑の水位が上昇、調圧水槽内に溢れ出して、水槽内の水位が上昇すると、右側の排水機場に設置された、ガスタービンポンプを稼働、水槽内の水を組み上げて、江戸川に排水します。その様子を説明してくれます。

上の写真は、第一立坑の調圧水槽流入部を写したものと、水槽内の柱の写真です。
柱の上下2か所に表示されているのは、上が「定常運転水位」と、下が「ポンプ停止水位」で、排水ポンプの稼働範囲を示しています。
この排水ポンプの能力がべらぼうで、1秒間に200㎥(25mプール1杯分)の水を排水出来るそうで、それを4基備えています。

左の写真奥に写る建屋が、排水機場で手前のサッカーグラウンドの下に、調圧水槽が有ります。右の写真は江戸川の排水樋門の景色です。
今回の見学で、洪水対策のために、各地で色々な防災施設が造られていることを改めて知りました。
そしてこれらの施設が、毎年その役目を果たしている事にも、驚きました。「万が一の施設」では無く、常日頃から私達の生活の安心を、見守っている施設だったのです。
栃木市で進められている、「巴波川地下捷水路」に改めて期待をしていきたいと思います。

本格的な工事に入った、上流側流入施設工事現場、2025年2月10日撮影。

下流側流出施設工事現場、2025年1月24日撮影。
平成橋下流部右岸の工事ヤードでは、立坑の工事が終わり、シールドマシンも準備され、写真で建設が進む建屋は、トンネル工事で発生した掘削物(石や泥水など)を、分別処理する施設で、24時間稼働する為、設備の稼働音や光が外部に漏れないよう、防音する覆い屋だそうです。この施設が完成すれば、いよいよシールドマシンを稼働させて、トンネル掘削作業が始まると、思われます。
工事の安全をお祈りしたいと思います。
今回の参考資料:
・栃木土木事務所ホームページより「一級河川巴波川における改良復旧事業の実施状況について」
・同「一級河川巴波川地下捷水路本体建設工事の起工式について」
・「永野川・巴波川改良復旧工事等安全協議会 巴波川 河川激甚災害対策特別緊急事業」ホームページ
・「神田川・環状七号線地下調節池」リーフレット 東京都建設局発行
・「首都圏外郭放水路」パンフレット 国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所発行
ところが、丁度今から10年前の、平成27年(2015)9月9日から11日にかけて、60年に1度という大雨の被害が発生しました、「平成27年関東・東北豪雨」です。私はこの街で60年以上暮らしてきていましたが、これほどの洪水被害を見たことがありませんでした。この時の栃木市中心市街地の被害は、浸水面積約171ha・床上浸水732戸・床下浸水988戸と言うものでした。私の家も直ぐ脇を流れる清水川が溢れ、浄化槽は浸水で使えなくなりました。幸いもう一歩のところで、床下への浸水に至りませんでした。
その後は、こんな被害はもう起きないだろうと、高く括っていたのですが、4年後の令和元年(2019)10月11日から13日にかけての、台風第19号に伴う大雨により、栃木市中心市街地は、またもや未曽有の水害に見舞われてしまいました。浸水面積は約218ha・床上浸水1217戸・床下浸水996戸と、前回より広範囲に被害をもたらしました。「令和元年東日本台風(台風第19号)」です。
栃木県は本格的な巴波川の治水のために、令和5年(2023)9月7日、「一級河川巴波川地下捷水路本体建設工事」の起工式を執り行い、蔵の街栃木市街地を洪水被害から守るため、蔵の街大通りの地下約10mに、直径約5.5mのトンネルを通して、主要地方道栃木粕尾線の巴波川に架かる「原の橋」の上流左岸に流入施設を設け、巴波川の増水した水を取り込み、地下トンネルでバイパスして、主要地方道栃木小山線の巴波川に架かる「平成橋」の下流側右岸に設ける流出施設より、巴波川に戻すものです。掘削するトンネルの総延長は約2.4kmに成るそうです。
現在、流出施設側の工事は着々と進行中で、今年に入って流入施設の工事も本格的に始まったようです。
そこで、私は現在進んでいる洪水対策のための地下施設について、より深く知ろうと、東京周辺で稼働している同様の「地下防災施設」を見学してきました。
初めに東京都建設局が管理している「神田川・環状七号線地下調節池」です。
環状七号線の道路の下40m前後の深さに長さ4.5kmに渡って、内径12.5mのトンネルを作り、神田川・善福寺川・妙正寺川に取水施設を設け、大雨等で増水した河川の水を地下トンネル内に流入させて貯留し、洪水が収まったらポンプで汲み上げて、元の河川に戻す設備です。


したがって、洪水の時稼働させる施設の為、平常時はトンネル内に入って見学をすることが出来ます。
上の写真は見学時に撮影したもので、地下貯水池本体部では無く、取水施設から地下貯水池への連絡管渠部分に成ります。連絡管でもその内径は約6m有り、丁度栃木の地下捷水路の規模と同等の大きさになります。ここでそれを実感しました。
地下貯水池本トンネルの内径は12.5mですから、その大きさは倍以上になり、この貯水池には約54万㎥の洪水を貯留出来ると聞いても、とても理解不可能です。次の写真が地下貯水池の様子です。見学者が小さく見えます。

トンネル内に入る時は各自にペンライトが渡されましたが、トンネル内は水を貯める所なので、照明設備が有りません。トンネル内で案内のスタッフの方から、照明を一度一世の消灯するように言われ、その瞬間周囲は漆黒の闇に包まれ、全く何も見えない状態になり、普段はトンネル内はこんな世界なのだと知ることが出来ました。
次に、埼玉県春日部市の東の端、千葉県との県境となる江戸川の右岸に、更に大規模な洪水対策地下施設が有ります。そちらも見学してきました。
国土交通省江戸川河川管理事務所が管理する、「首都圏外郭放水路(防災地下神殿)」です。
首都圏外郭放水路は倉松川、大落古利根川など中小河川の洪水を地下に取り込み、国道16号線の地下50mに総延長6.3kmのトンネルを通じて江戸川に流す、世界最大級の地下放水路です。

上の写真が「地下神殿」と称される、調圧水槽です。その大きさは、幅78m、長さ177m、高さ18mと言う巨大な地下空間に成ります。次の写真は、現地に掲示されていた施設の説明板です。

図の左下、地下トンネルを通じて流れてきた洪水が、第一立坑内で水位を上げ、調圧水槽内に流れ込んできます。調圧水槽内の水位が一定の高さまで上昇すると、図右上の排水機場のポンプが起動して、排水樋管を通して、江戸川に排水します。
次の写真は、首都圏外郭放水路・地底探検ミュージアム「龍Q館」2階フロアーに展示されている「施設稼働模型」の一部を撮影したものです。前掲の説明図部分を、立体的に断面下模型です。

左下のトンネルを通じて流れ込んだ洪水により、第一立坑の水位が上昇、調圧水槽内に溢れ出して、水槽内の水位が上昇すると、右側の排水機場に設置された、ガスタービンポンプを稼働、水槽内の水を組み上げて、江戸川に排水します。その様子を説明してくれます。


上の写真は、第一立坑の調圧水槽流入部を写したものと、水槽内の柱の写真です。
柱の上下2か所に表示されているのは、上が「定常運転水位」と、下が「ポンプ停止水位」で、排水ポンプの稼働範囲を示しています。
この排水ポンプの能力がべらぼうで、1秒間に200㎥(25mプール1杯分)の水を排水出来るそうで、それを4基備えています。


左の写真奥に写る建屋が、排水機場で手前のサッカーグラウンドの下に、調圧水槽が有ります。右の写真は江戸川の排水樋門の景色です。
今回の見学で、洪水対策のために、各地で色々な防災施設が造られていることを改めて知りました。
そしてこれらの施設が、毎年その役目を果たしている事にも、驚きました。「万が一の施設」では無く、常日頃から私達の生活の安心を、見守っている施設だったのです。
栃木市で進められている、「巴波川地下捷水路」に改めて期待をしていきたいと思います。


本格的な工事に入った、上流側流入施設工事現場、2025年2月10日撮影。

下流側流出施設工事現場、2025年1月24日撮影。
平成橋下流部右岸の工事ヤードでは、立坑の工事が終わり、シールドマシンも準備され、写真で建設が進む建屋は、トンネル工事で発生した掘削物(石や泥水など)を、分別処理する施設で、24時間稼働する為、設備の稼働音や光が外部に漏れないよう、防音する覆い屋だそうです。この施設が完成すれば、いよいよシールドマシンを稼働させて、トンネル掘削作業が始まると、思われます。
工事の安全をお祈りしたいと思います。
今回の参考資料:
・栃木土木事務所ホームページより「一級河川巴波川における改良復旧事業の実施状況について」
・同「一級河川巴波川地下捷水路本体建設工事の起工式について」
・「永野川・巴波川改良復旧工事等安全協議会 巴波川 河川激甚災害対策特別緊急事業」ホームページ
・「神田川・環状七号線地下調節池」リーフレット 東京都建設局発行
・「首都圏外郭放水路」パンフレット 国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所発行
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